周知の事実ですが、心理士としての国家資格はありません。また、業務独占資格でもないため、極端なことを言えば誰がカウンセリングをやっても構いません。ただ、主だった資格がなければ信用に欠けるので、相談業務に就きたければ、やはり資格は必要だと言えるでしょう。
ただし、これは意外と知られていないのですが、「心理士」や「カウンセラー」を謳う資格は、信じられないほどたくさんあります。講習会に出るだけで誰にも取れるような資格は、全く役に立たないどころか、数十万円という詐欺のような金額を取るところもあります。気を付けてください。
尚、現在国会に「公認心理師法案」が提出されており、法案が可決されれば、「公認心理師」という国家資格ができます。臨床心理士や臨床発達心理士の資格をもつ人でも、数年後にできる国家試験を受け直さなければならず、また国家資格ができても心理師の待遇はそれほど変わらないとも言われており(常勤心理師は増えるとは思いますが…)、動向が気になります。
- 臨床心理士 文部科学省認可財団法人日本臨床心理士資格認定協会認定の民間資格
心理士の資格として一番有名な資格。常勤はほとんどありませんが、あらゆる分野で求人があります。現在スクールカウンセラーは、臨床心理士(最近は臨床発達心理士)を優先して採用することになっています。資格取得のためには、財団法人日本臨床心理士資格認定協会の資格試験に合格することが必須要件となります。
申請条件は、
@第1種指定大学院を修了する A第2種指定大学院を修了し1年以上の臨床経験を積む B臨床心理学またはそれに準ずる心理臨床に関する分野を専攻する専門職大学院を修了する C医師免許取得者で取得後2年以上の心理臨床経験を積む
などです。受験資格を得るまでがかなり難しく、そういう意味では相談援助の専門職といえます。
ただ、よく考えてほしいのですが、大学院まで行く時間とお金がある人がどれだけいるでしょう。勉強は頑張ればどうにでもなりますが、時間とお金だけはどうにもなりません。更に、資格を取っても職が保証されるわけでもありません。大学院には大学からそのまま進学した人や、ご夫婦でかなり稼いできた中堅の女性で占められているのが現状です。受験資格までの門が狭すぎるのは問題ではないかと個人的には思います。
尚、5年更新制です。臨床活動をしていなければ、自然に資格を失います。
- 臨床発達心理士 一般社団法人臨床発達心理士認定運営機構認定の民間資格
一般にはあまり知られていませんが、心理学を専攻した者であれば誰もが耳にしたことのある有名な資格です。常勤はほとんどありませんが、福祉施設での求人では、臨床心理士ではなく臨床発達心理士を募集するところが多く見られるようになりました。ここ数年で、子育てや療育など、人間の発達に関する相談業務の専門職として知れ渡るようになり、福祉分野では臨床心理士より専門的知識があると認識されることもあります。
資格取得のためには臨床発達心理士認定運営機構所定の要件履行・申請承認などを得る必要があります。
受験資格を得る道は様々あり、詳しくは認定機構のホームページを参照していただきたいのですが、一番の早道は福祉系の大学院で指定科目の単位を取り、200時間以上の実習を積み、事例報告書をスーパーバイザーのもとで作成し、尚且つ筆記試験を受けるタイプ(一般タイプ)です。
大学院に行かなくとも、児童相談所、発達センター、児童養護施設、養護老人ホーム等の福祉施設で、発達上の問題を抱えている者(発達障害児、被虐待児、認知症など)の援助に当たった心理士、社会福祉士、保育士、介護士などでも、一定の臨床経験を積み、運営機構指定の講習会の単位を取れば、受験資格が得られます。
一見、臨床心理士よりも資格が取りやすいように見えますが、実際には臨床経験の積める施設に就職するするには資格が必要で、受験資格を得るまでは臨床心理士より厳しいのではないかという印象があります。その代わり、試験は、現職者タイプで応募した場合は書類審査と面接のみです。だたし、面接では専門的な知識と心構えが追及されるようです。
尚、5年更新制です。臨床活動をしていなければ、自然に資格を失います。
- 学校心理士 一般法人学校心理士認定運営機構認定の民間資格
割と知られた資格ですが、学校心理士=スクールカウンセラーではありません。あくまで資格名であり、職業名ではありません。心理職というより、教育職に近いです。常勤はほとんどありませんが、福祉機関や教育機関での求人が稀にあります。学校生活におけるさまざまな問題について、アセスメント・コンサルテーション・カウンセリングなどを通して、子ども自身、子どもを取り巻く保護者や教師、学校に対して、「学校心理学」の専門的知識と技能をもって、心理教育的援助サービスを行うことのできる方に対して認定される資格です。スクールカウンセラーとして採用されることもあります。
資格認定審査は、提出された書類,筆記試験,ケースレポートまたは研究実績によって行われます。
申請条件は、
@大学院で学校心理学関係の科目の単位を修得し、修士課程・専門職学位課程を修了し、学校心理学に関する専門的実務経験を1年以上有する A学部卒業で学校心理学に関する専門的実務経験を5年以上有する
など。
受験資格を得るまでが大変な割に、求人は極端に少ないです。自ら「臨床心理士に準ずる資格保有者」として名乗り出ないと就職は難しいです。教職者であれば、当資格を取得すれば、教育機関での相談業務に就くことは可能だと思われます。
尚、5年更新制です。臨床活動をしていなければ、自然に資格を失います。
- 認定心理士 公益社団法人 日本心理学会認定の民間資格
心理学を専攻した者であれば、必ず知っている資格です。ただし、資格というよりは、学問を修めた証、と考える方が正しいかと思います。当然のことながら、この資格で職に就くことは不可能ですし、何の自慢にもなりません。
そのため、心理学を専攻した者でも敢えて申請しない方が多いのですが、昔と違って現在はその意味合いが違います。というのは、今では「心理学」と謳ってそれ「らしき」講義をやっている大学が多く、あたかも自分は心理学を学んだと勘違いしている者が大勢いるからです。恋愛心理学などは心理学とは大凡認められていません。科学的根拠に乏しいからです。
また、例えば社会心理学であっても、中身が学問というより教養に近いものもあります。そういった事情もあり、日本心理学会は認定心理士を
「日本心理学会認定心理士とは大学における心理学関係の学科名が学際性を帯びてきて、必ずしも「心理学」という,直接的名称が使われていない場合が多いことから、心理学の専門家として仕事をするために必要な、最小限の標準的基礎学力と技能を修得している、と日本心理学会が認定した人のことです。」
と定めています。心理学の学士を持っている者であれば、誰でも申請は可能なのですが、意外に卒業さえすれば誰でも取れると勘違いしている者がいるのも事実です。認定のためには、
@基礎科目 下記3領域において、a,bは各4単位、cは3単位以上を含む基礎科目合計12単位以上であること a.心理学概論 b.心理学研究法 c.心理学実験・実習 A選択科目 下記5領域中3領域で各4単位以上を含み、合計16単位以上であること d.知覚心理学・学習心理学 e.生理心理学・比較心理学 f.教育心理学・発達心理学 g.臨床心理学・人格心理学 h.社会心理学・産業心理学 Bその他の科目 (@とAの合計単位数が36単位以上の場合は必ずしも必要ではない) i.心理学関連科目、卒業論文・卒業研究
いかがでしょうか。基礎心理学系の方は臨床心理学や人格心理学、臨床心理学系の方は知覚心理学・学習心理学など、意外に取り損ねている科目があるのではないでしょうか。特に臨床心理学系の方は実験をしていない方も多く、統計学を全く知らずに大学院に進んでいる方ばかりです。そういう方は必須科目である心理学研究法で単位を取っていないはずです。
「どうせ取っても意味ない」と開き直る方はそれでも構いませんが、「心理学を知っている」などとは絶対に口にしてほしくないです。
- 産業カウンセラー 社団法人日本産業カウンセラー協会認定の民間資格
割と知られた資格ですが、産業カウンセラー=キャリアカウンセラーではありません。あくまで資格名であり、職業名ではありません。常勤はまずなく、求人もほとんどありません。キャリアコンサルタントとしての専門家を養成することを目標としてはいるものの、臨床心理士・臨床発達心理士・学校心理士と比較して、取得条件が緩いです。学士・あるいは修士の者で、産業心理学を主とした心理学諸科学の単位を8単位取得し、講習会を受ければ受験資格を満たせます。認知度が高い割に求人がほとんどありません。カウンセリングルームを開設している者の中に、産業カウンセラーを掲げている者もいますが、この資格は誰でも取れることは知っておいていただきたいです。
もっとも、臨床経験が長ければ、信用に足ります。相談業務を志していなければ、そもそも取ろうとしない資格だからです。それにある程度のスキルがなければ長年続けることは難しいからです。
- 幼児心理カウンセラー 一般財団法人田中教育研究所認定の民間資格
発達検査で有名な「田中=ビネー知能検査」のキットを販売・管理している田中教育研究所が認定している資格。世の中に蔓延っている怪しい資格から一線を隔しています。
乳幼児の発達、カウンセリングの理論・技法を十分理解・習得し、その知識と技術を日常の保育や子どもの発達支援、保護者への適切な援助のために活かすことのできる方に認定される資格です。カウンセリングを主たる専門業務とする者ではなく、幼稚園、保育所(園)などの保育現場で子どもと直接関わり、子どもとその保護者への適切な援助、子育て支援、地域や専門機関との連携をはかれる者に授与されるものです。
試験は基礎テスト合格や講座の受講が終了している者に対して、課題レポートの審査と面接で行われます。
申請条件は@幼稚園教諭免許または保育士資格を有する,A幼稚園、保育所等で職務経験年数が3年以上,B基礎テスト合格,C幼児カウンセリング講座受講の4つを全て満たしていることです。
目的や資格認定を見てもわかるように、相談業務のために身に付ける資格ではありません。幼稚園や保育所で相談役になる、保育ルーム開設時の売りにするなどのために役立てる資格にはなります。もちろん、自分の教養のために取得を目指す方もおられると思います。
- メンタルケア心理専門士 メンタルケア学術学会認定の民間資格
認知度は全く、あるいは殆どありません。平成23年までは、特定非営利活動法人医療福祉情報実務能力協会認定の資格でしたが、平成24年度より学術学会が独立。文部科学省所管財団法人生涯学習開発財団が後援する学会でもあり、数ある心理士の資格でも、割と専門性と信頼性が増した資格ではあります。ただし、資格取得には実習がいらず、信頼性の低さと認知度の低さから求人はありません。カウンセリングルームを開設している者もいるようですが、今後の心理専門士の活動次第で、活躍の場が広がる可能性はあります。
試験内容は1次試験の筆記試験及び課題レポートと、2次試験の面接です。
申請条件は
@メンタルケア心理士認定試験合格者 A臨床心理士資格保有者 B心理隣接研究・専攻科修士
ハードルは高そうに見えますが、実は下位資格のメンタルケア心理士は学歴不問で、通信講座、しかも自宅受験で取得できるため、受験自体は誰でも可能です。ただし、試験は難しい。通信講座で用意される、30ページくらいしかないテキスト5冊から出題されるので楽勝のように思えますが、素人にはなかなか難しいかもしれません。逆に心理学専攻の者だと、あくまで「テキストに書かれていることを書かないと得点にならない」ことから、結局通信講座を取らないとまともに得点できません。
ちなみに通信講座はヒューマンアカデミーで申し込むことができます。 ヒューマンの通信講座 『メンタルケア心理士』
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